石垣の目地補修は、傷んだ目地へ材料を詰めれば終わりというものではありません。既存目地の状態や穴の大きさ、石の種類、これまでの仕上げ方などを確認し、現場に合わせて施工方法を変える必要があります。
今回は、大阪府内で施工した2件の石垣目地補修工事を紹介します。
一つは、自然石の石垣にデザイン性を加えた山型目地を施工した現場。もう一つは、既存目地の形に合わせて、間知石を丸みのある目地に仕上げた現場です。
また、間知石の現場では、穴の大きさに応じて電動グラウトガン・手動式モルタル圧送ポンプ・手作業による目地詰めを使い分けました。
なお、今回紹介する工事は、目地の剥がれや雑草、石垣内部からの水や土の流出などに対応するための目地補修です。石垣の崩れを防ぐ構造的な補強工事とは、目的も施工方法も異なります。
今回行った石垣目地補修の目的
今回紹介する2現場では、施工前の状態と補修の目的がそれぞれ異なりました。
自然石の現場
自然石の現場では、雨天時に石垣から雨水がじわっと染み出していたことが、補修を行うきっかけでした。ただし、水と一緒に土や細かい砂が流れ出ている状態ではありませんでした。
既存のモルタル目地を打診したところ、大部分は空洞音がなく、しっかりしている状態でした。そのため、既存目地をすべて撤去するのではなく、浮きや剥がれの可能性がある部分だけを取り除き、残せる目地は残したうえで表面を仕上げ直しました。
間知石の現場
間知石の現場は、家の下部が石垣になっており、目地付近から水が染み出していました。生活排水の可能性も考えられましたが、別業者による排水設備の調査では、漏水している様子は確認されませんでした。
また、既存目地の一部が剥がれ、隙間から雑草も生えていました。そのため今回は、水の発生源を修理する工事ではなく、雑草の除去と傷んだ既存目地の補修を中心に施工しました。
目地補修と石垣の構造補強は別の工事
石垣の目地を新しく詰め直しても、それだけで石垣自体が構造的に補強されるわけではありません。
今回行った目地補修は、既存目地の剥がれを直し、目地からの土の流出や雑草の発生を抑えることを目的とした施工です。電動グラウトガンや手動式モルタル圧送ポンプも、狭い穴や広い穴へ目地材を充填するために使用しています。
一方、石のぐらつきや石垣の膨らみ、崩れなどに対応する場合は、目地詰めとは別の判断と施工が必要です。石垣内部の栗石などを含めて本格的な充填や補強を行う場合には、圧送ロータリーポンプを使用するような工法が選ばれることもあります。
圧送ロータリーポンプは、今回使用した電動グラウトガンや手動式モルタル圧送ポンプとは、機械の規模も工事目的も異なります。
そのため、「目地を埋めれば石垣の崩れも防げる」とは考えず、石に動きや膨らみなどが見られる場合は、目地補修で対応できる状態なのか、補強工事が必要なのかを確認することが重要です。
自然石の施工例|デザイン性を加えた山型仕上げ
自然石の現場では、約11.6㎡の目地補修を行いました。作業期間は3日間で、合計7人工です。
今回の山型目地は、施主様からの要望によって採用しました。目地を埋めるだけではなく、自然石に合うように見た目を意識し、少しデザイン性を加えて仕上げています。
洗剤を使用した高圧洗浄
目地補修を始める前に、別業者によって洗剤を使用した高圧洗浄が行われました。
洗浄前は石垣全体が黒っぽく汚れていましたが、洗浄後は自然石本来の明るい色が分かる状態になっています。

高圧洗浄前の自然石

高圧洗浄後の自然石
既存目地の打診検査と部分撤去
既存のモルタル目地を叩いて、浮きや内部の空洞がないか打診検査を行いました。
大部分の目地からは空洞音がせず、しっかりしている状態でした。そのため、既存目地をすべて撤去するのではなく、剥がれそうな部分だけを取り除き、残せる部分はそのまま利用しています。
ハイフレックスを塗布
打診と部分撤去を終えたあと、新しく施工する目地へ接着剤としてハイフレックスを塗布しました。
既存目地を残して上から仕上げる部分もあるため、新しい材料を施工する前の接着処理は重要な工程です。

樹脂グラウト材を施工する前にハイフレックスを塗布
樹脂グラウト材による目地詰め
目地材には、ビルモルパッド材へハイフレックスと水を適量加えた樹脂グラウト材を使用しました。
材料の硬さは、目地へしっかり押し込めることと、仕上げの形を保てることを考えながら現場で調整しています。配合量は施工条件によって変わるため、この記事では固定の配合比率としては紹介しません。
ビルモルパッド材を使った樹脂グラウト材の目地詰め作業
山型目地をデザイン的に形成
材料を詰めたあと、目地の両側をしっかり押さえると、中央部分が自然に山型になります。
ただし今回は、そのまま盛り上がりを残しただけではありません。石に付着した材料を水刷毛で掃除したあと、細い部分へ入れやすい鏝を使い、目地中央の山をもう一度形成しました。
自然石は目地幅や角度が一定ではないため、周囲の石とのバランスを見ながら山の高さや形を整えています。単純に目地を押さえる仕上げよりも手間はかかりますが、目地の線が際立ち、石垣全体に立体感のある仕上がりになります。

自然石の形に合わせて目地中央の山を整える作業
目地中央を立体的な山型に整えた仕上がり
翌日に石へ付着した材料を清掃
施工翌日には、石の表面へ付着して残った樹脂グラウト材を清掃しました。
目立つ固まりはマイナスドライバーや金ブラシで取り除き、残った汚れには塩酸を部分的に使用しています。
塩酸は石や目地の色を変える可能性があるため、石垣全体へ先に十分な水をかけ、汚れが残った部分だけに小刷毛で少量ずつ付けました。少し時間を置いたあとすぐに水で洗い流し、金ブラシでこすってから、最後にもう一度全体を十分に水洗いしています。
石の種類や状態によっては変色や傷みにつながるため、塩酸を使用する場合は、材質の確認、目立たない場所での確認、保護具の着用、周囲への飛散や排水への対策が必要です。

翌日に石へ付着した樹脂グラウト材を取り除いて仕上げる
自然石の山型仕上げが完成
山型目地は、丸み仕上げと比べて形を整える工程が多く、施工にも時間がかかります。その分、今回は施主様の要望に合わせた、見た目にもこだわった仕上がりになりました。
なお、施工後はまだまとまった雨が降っていないため、施工前に見られた雨水の染み出しがどのように変化したかは、現時点では確認できていません。

目地中央に山を作りデザイン性を持たせた完成状況

樹脂グラウト材で山型目地に仕上げた自然石の石垣
間知石の施工例|既存目地に合わせた丸み仕上げ
間知石の現場では、約35㎡の目地補修を行いました。作業期間は4日間で、合計9人工です。
施工前は、既存目地の一部が剥がれ、隙間から雑草が生えていました。また、石垣から水が染み出しており、生活排水の可能性も疑われましたが、別業者による排水設備の調査では漏水している様子は確認されませんでした。
今回は水の発生源を修理する工事ではなく、傷んだ目地の補修、雑草の処理、水抜き材の設置を中心に施工しています。

既存目地の一部が剥がれ、隙間から雑草が生えていた施工前の状況
既存目地の打診検査と撤去
最初に既存目地の打診検査を行い、浮きや剥がれがある部分を確認しました。
打診によって傷んでいると判断した目地は撤去し、新しい樹脂グラウト材を施工できる状態に整えています。

既存目地を打診し、撤去が必要な部分を確認

打診で傷みを確認した既存目地を部分的に撤去
飛び出した草を切り、内部に残った根を焼く
目地から外へ伸びていた草は先にカットしました。その後、既存目地を撤去してから、石垣内部に残った根や雑草をバーナーで焼いて処理しています。
表面に出ている草だけを取り除いても、内部に根が残っていると再び伸びてくる可能性があります。今回は、新しい目地材を施工する前に、石垣内部で確認できる根まで処理しました。
バーナーを使用する際は、周囲の枯れ草や建物への延焼を防ぐため、火の管理と消火準備が必要です。

既存目地の撤去後に石垣内部へ残った根をバーナーで処理
高圧洗浄と石材専用洗剤による洗浄
除草と既存目地の撤去後、まず高圧洗浄機で石垣表面の泥や汚れを洗い流しました。
その後、石材を洗うための専用洗剤を塗布し、最後にもう一度高圧洗浄を行っています。最初の高圧洗浄で表面の汚れを落としてから洗剤を使用することで、石に付着した汚れを確認しながら洗浄しました。

表面の汚れを高圧洗浄で落としたあとに石材専用洗剤を塗布

石材専用洗剤の使用後に高圧洗浄で汚れと洗剤を洗い流す
ヤシマットを使った水抜き材を設置
この現場では、ヤシマットを使って水抜き材を現場で加工しました。
ヤシマットを幅約3cm、長さ約30cmに切り、中央部分をラップで巻きます。水を受ける石垣内部側と、水を外へ出す目地表面側の両端にはラップを巻かず、ヤシマットを露出させた状態で設置し、目地補修完了後に目地表面でカットしました。
加工した水抜き材を石垣の穴へ差し込み、ウレタンスプレーで固定しています。この現場では、約1㎡につき1か所を目安に設置しました。

幅約3cm、長さ約30cmに切ったヤシマットで水抜き材を作成

水抜き材を石垣の穴へ差し込み、ウレタンスプレーで固定
ハイフレックスを目地へ散布
洗浄と水抜き材の設置を終えたあと、新しく樹脂グラウト材を施工する部分へ、接着剤としてハイフレックスを散布しました。
自然石の現場では刷毛で塗布しましたが、施工範囲の広い今回の現場では噴霧器を使用して散布しています。

施工範囲が広いため噴霧器を使ってハイフレックスを散布
穴の大きさに合わせて3種類の方法で充填
樹脂グラウト材には、ビルモルのグラウト材へハイフレックスと水を加えたものを使用しました。配合は施工条件に合わせて調整しています。
この現場では、すべての目地を同じ道具で詰めるのではなく、穴の大きさや形に合わせて3種類の施工方法を使い分けました。
狭い穴には電動グラウトガン
ノズルが入る程度の狭い穴には、電動ドリルに接続するグラウトガンを使用しました。
手では材料を入れにくい奥まった部分でも、ノズルが入れば樹脂グラウト材を流し込みやすく、手作業より短時間で充填できます。

ノズルが入る狭い穴へ電動グラウトガンで樹脂グラウト材を充填
※電動グラウトガンを実際に使用した感想や注意点は、別の記事で詳しく紹介しています。
狭い穴への注入で使用した電動グラウトガンのレビューはこちら
石垣目地詰めで【使用】狭い隙間へのグラウト注入に電動グラウトガンを使ってみた
広い穴には手動式モルタル圧送ポンプ
穴が広く、電動グラウトガンより多くの材料を入れる必要がある箇所には、手動式モルタル圧送ポンプを使用しました。
筒状の本体へ樹脂グラウト材を直接入れ、後部のハンドルを人力で押して材料を送り出します。電動グラウトガンとは構造が異なり、広い穴へまとまった量を充填する場合に使いました。

広い穴には手動式モルタル圧送ポンプでまとまった量を充填
そのほかの目地は手作業
グラウトガンや圧送ポンプを使う必要のない一般的な目地は、コテなどを使って手作業で材料を詰めました。
道具の性能だけで施工方法を決めるのではなく、目地の幅、深さ、角度を見ながら、その場所に合った方法を選ぶことが重要です。

一般的な目地は幅や深さを確認しながら手作業で充填
水刷毛で撫でて丸みのある目地に仕上げる
今回の間知石は、既存目地が丸みのある形に仕上げられていたため、新しい目地も既存の形に合わせました。
材料を詰めて目地の両側を押さえると、中央は一度自然に山型になります。その後、石に付着した材料を水刷毛で掃除しながら目地全体を撫で、角を落として丸みを付けました。
山型仕上げのように、掃除後にもう一度中央の山を形成する必要がないため、丸み仕上げは比較的速く施工できます。
間知石の丸み仕上げが完成
最後に石垣の足元を清掃し、施工完了です。
施工後に現場を確認した時点では、以前見られた水の染み出しは確認されませんでした。その後も、施主様から水の染み出しに関する連絡はありません。
ただし、水の発生源が特定されたわけではなく、長期的な止水効果を保証する工事でもありません。今回の結果は、施工後に確認できた範囲として紹介しています。

既存目地の形に合わせて丸みを付けた樹脂グラウト目地

樹脂グラウト材で既存目地に合わせた丸み仕上げが完成
山型仕上げと丸み仕上げの違い
今回の2現場では、自然石を山型目地、間知石を丸みのある目地に仕上げました。
ただし、「自然石なら必ず山型」「間知石なら必ず丸み」と決まっているわけではありません。石の種類や積み方だけでなく、既存目地の形、周囲との納まり、施主の要望、完成時の見え方を確認して仕上げ方を決めます。
今回の自然石は、施主の希望に合わせてデザイン性のある山型を採用しました。間知石は、補修前からあった目地の形に合わせて丸く仕上げています。
| 比較項目 | 自然石の山型仕上げ | 間知石の丸み仕上げ |
|---|---|---|
| 今回採用した理由 | 施主様の希望と完成時の見た目 | 既存目地の形に合わせるため |
| 材料を詰めた直後 | 両側を押さえると中央が自然に山型になる | 同じく中央が一度山型になる |
| 水刷毛による掃除後 | 中央の山をもう一度形成する | 目地全体を水刷毛で撫でて丸くする |
| 仕上がり | 目地の線と立体感が目立つ | 石となじむ、丸みのある仕上がり |
| 施工の手間 | 山の形を整えるため手間がかかる | 掃除と仕上げを同時に行えるため比較的速い |
どちらも最初は中央が山型になる
山型仕上げと丸み仕上げは、材料を詰めた直後から作業方法がまったく違うわけではありません。
どちらも目地へ材料を詰め、両側をしっかり押さえると、中央部分が自然に盛り上がります。違いが出るのは、石に付着した材料を水刷毛で掃除したあとの仕上げ方です。
山型仕上げでは、水刷毛による掃除後に中央の山を作り直し、周囲の石とのバランスを見ながら形を整えます。
丸み仕上げでは、石を掃除するのと同時に目地全体も水刷毛で撫で、中央の盛り上がりと角をなじませます。
見た目だけでなく、最後の仕上げ工程と施工にかかる手間にも違いがあります。
2現場を施工して分かったこと
今回の2現場は、どちらも石垣の目地補修ですが、施工前の状態、必要な工程、使用する道具、仕上げ方は同じではありませんでした。
実際に施工して改めて感じたのは、目地材を詰め始める前の確認と下準備が重要だということです。
既存目地はすべて撤去するとは限らない
既存目地は、見た目だけで撤去範囲を決めず、打診によって浮きや空洞の有無を確認します。
しっかりしている部分まで一律に取り除くのではなく、残せる部分は残し、浮きや剥がれがある部分を中心に撤去しました。
雑草や汚れを残したまま施工しない
目地から雑草が生えている場合は、表面の草を切るだけでなく、石垣内部に残った根も確認する必要があります。
また、新しい材料を施工する前に石や目地を洗浄し、接着の妨げになる汚れを取り除きました。
穴の大きさによって道具を使い分ける
狭い穴には電動グラウトガン、広い穴には手動式モルタル圧送ポンプ、そのほかの目地にはコテによる手詰めを行いました。
一つの道具ですべて対応しようとするより、穴の幅、奥行き、角度、必要な充填量を見て施工方法を変える方が作業しやすくなります。
仕上げ方は石の種類だけでは決まらない
今回の自然石は、施主様の要望に合わせてデザイン性のある山型に仕上げました。間知石は、既存目地の形に合わせて丸みを付けています。
石の種類は判断材料の一つですが、既存の納まりや石垣全体の見え方、施主様の希望も確認して仕上げを決めることが大切です。
目地補修で対応できる範囲を見極める
目地補修は、剥がれた目地を直し、土の流出や雑草などに対応する工事です。石のぐらつきや石垣の膨らみ、崩れなどがある場合は、目地を詰めるだけで対応できるとは限りません。
施工前に石垣の状態を確認し、目地補修でよいのか、別の補強工事が必要なのかを見極めることが重要です。
まとめ
今回は、大阪府内で施工した自然石と間知石、2件の石垣目地補修工事を紹介しました。
自然石の現場では、施主様の要望に合わせて、目地中央の山をデザイン的に整えました。間知石の現場では、既存目地の形に合わせ、水刷毛で目地全体を撫でて丸みを付けています。
同じ石垣目地補修でも、既存目地の状態、雑草の有無、穴の大きさ、石の積み方、希望する見た目などによって、必要な工程や仕上げ方は変わります。
また、狭い穴には電動グラウトガン、広い穴には手動式モルタル圧送ポンプ、そのほかの目地には手作業と、施工箇所に応じて道具を使い分けました。
今回紹介した工事は、傷んだ目地の補修や、土の流出・雑草などへの対応を目的としたものです。石のぐらつき、石垣の膨らみ、崩れなどが見られる場合は、目地補修とは別に補強工事が必要になる可能性があります。
石垣の状態を見ても、どのような工事を頼めばよいか分からないこともあると思います。目地の剥がれや雑草、水の染み出しなどが気になる場合は、状態が分かる写真と一緒にご相談ください。